掲示板に、2件同様の問合せがありました。ほぼ同内容なので1件だけ載せておきます。 【投稿内容】 伊藤匠四段が好成績で勝率部門でトップになっています。 貴サイトの成績は47 戦 38 勝 9 敗 (0.809)ですが、連盟の成績は45戦37勝8敗(0.8222)となっています。 今日の成績が反映されていないのでそれを加味すると連盟の成績は46戦38勝8敗(0.8261)となります。 つまり、貴サイトの成績は1戦1敗多いのです。 ネット上でやりとりしたある人からはNHK杯の松尾戦が前年度の成績ではないかと言われています。どちらが正しいのでしょうか。 なお、連盟に貴サイトの成績を元に照会をかけたことがありますが、返事がありませんでした。 合わせる必要があると思いますので、対応いただけたらと思います。 結論から言うと「ある人」のおっしゃる通りです。 かなり久しぶりにゼロから説明します。 まず、対局結果の基礎データは連盟公式サイトの「月間対局結果」です。 では、このデータを集計すれば「今年度棋士成績」と一致するかというと、 2014年度半ばまでは未放映のテレビ棋戦の対局結果を「今年度棋士成績」は含み、「月間対局結果」は含まないという 運用だったことなどさまざまな原因から常時30人前後の棋士についてズレがありました。ズレがあって当たり前だったわけです。 後述の通り、時期の長短や規模の大小の差はありますが、今でもそれは変わりません。 当然「月間対局結果」を元にしている当サイトの集計と「今年度棋士成績」の間にもズレがあり、そのズレの原因をまとめて いるのが「公式サイトの記録とずれている対戦」です。 当サイトを立ち上げた2003年度からしばらくの間、うろ覚えで申し訳ありませんが、連盟公式サイトには、 「『月間対局結果』を集計した結果と『今年度棋士成績』の間の差異に関する質問には応じません。」 といった趣旨の注意書きがありました。(正確な文面とはかなり言い回しが違うと思いますが、趣旨はこの通りです。) それもあり、当時たびたび問合せがあったので2007年度から上記の「公式サイトの記録とずれている対戦」ページを 作成しました。 余談ですが、作成意図に反しこのページがいわゆる「ネタバレ」として扱われた結果、2014年度の未放映のテレビ棋戦の 対局結果の運用変更までは、常にアクセスランキング上位10ページの常連になってしまいました。その結果、幸いこの 「ズレ」は周知のものとなり、 問い合わせはなくなりました。今回の問い合わせはたぶん15年ぶりぐらいのものです。 また連盟公式サイトがこの件に関しての対応が変わっていないことがもわかりました。 2014年度半ばの未放映のテレビ棋戦の対局結果の運用変更で、放映日の翌日に反映することになったためズレは 大きく減りましたが、無くなったわけではありません。たとえば、テレビ棋戦の予選結果は棋戦や期によって毎回 運用がかわりますが、基本的には、 @「今年度棋士成績」への勝敗数の反映→Aトーナメント表の発表→B「月間対局結果」へのデータ反映 の流れになります。実運用では@AあるいはABが同時の場合などいろいろあります。Aで日付無しの対局データを 作成して追加し、Bで日付を入れて再編します。ときにはBがなく、仕方がないので、Aの日付無しのデータのまま のこともあります。 ここでは@〜Aの間にはズレが生じます。銀河戦予選なら130人以上の「今年度棋士成績」と「月間対局結果」の 集計が合いません。当然、当サイトともズレが生じます。ほとんどの人は気づかないかと思いますけど。 蛇足になりますが、「今年度の成績」という言葉の意味合いが、公式サイトと当サイトでは大きく違っています。 まず各年度10月に四段昇級した棋士のページをみてもらうとわかりますが、上半期に三段として出場した新人王戦や 清流戦などの記録も 含めて、勝敗数を計算しています。そのため「プロになってからの公式戦成績」のみの 「今年度棋士成績」とは一致せずにズレがでますが、なるべく多くの対局結果を一覧として示したいということから、 全部混ぜて示し、ついでに通年の勝敗数を表しています。 女流棋士だとさらにはっきりします。女流棋戦以外のプロ棋戦の記録も含めて、勝敗数を計算しています。 そのため、こちらも 女流棋戦の公式戦だけの集計である「今年度女流棋士成績」とは一致せずにズレがでます。 これらは、2014年度以前は公式サイトの「今年度棋士成績」「今年度女流棋士成績」が未放映のテレビ棋戦の結果も 多く含んでいたため、現時点の今年度の成績としては使えないことから、「『月間対局結果』基準(ただし対局日の わかっているテレビ棋戦は対局日基準)における今年度のここまでで結果の判明している全棋戦の勝敗」として集計 した値であり、もう20年近く運用しているので定着したものと考えています。 正確に書くと長すぎるし、短く「今年度成績」と書くと紛らわしいのは難ですが。 あと厄介なのが、今回の問合せにも関連する「年度またがり」です。多くの人が気にしているのが年度末でしょう。 このときには年度成績の確定のため、未放映のテレビ棋戦の対局結果、ただし勝敗数だけが「今年度棋士成績」に反映 されます。 これに伴い「年度末処理」を行います。前年度におこなわれたと推定される対局にフラグを立て、銀河戦の分は 前年度データ、NHK杯戦の分は新年度データとして扱います。銀河戦のデータの中には対局日が未発表な分も含まれ ます。なお、勝敗数と組合せから勝敗が「推定」できるので、この勝敗データは別途管理します。今年度2021年度も 同じで、2022年3月末から4月初めにかけておこないます。この時点では、2021年度の「今年度棋士成績」と「月間対局 結果」の集計の間に数十局分のズレが生じます。そのズレが全て解消されるには未放映分のテレビ棋戦の放映が終わる 2022年6月〜7月末ぐらいまでかかります。 これらは前年度に対局が行われ新年度に放映する対局のものですが、あくまで勝敗数と組合せから対局カードを推定 しているだけであり、具体的にそれぞれの対局が前年度に行われたものであることを確定するためには、対局日の確定が 必要となります。 現実問題として、連盟公式サイトはテレビで放映するテレビ棋戦本戦の対局日は、ごく一部の例外(たまたま昇段決定 など)を除き、公表していません。銀河戦は主催者の一つである「囲碁・将棋チャンネル」の公式サイトに対局日が掲載 されるのでいいのですが、NHK杯は公表していません。そのため年度またがり分は「今年度棋士成績」では前年度分と して集計、「月間対局結果」では新年度分として表示しているのをそのまま踏襲する形でズレが生じます。 すっきりはしないのは最初からわかっていたのですが、正直な話として「そのうちNHK杯も対局日を公表するだろ」 と楽観的に考えていました。まさか今日まで非公表がつづくとは思っていませんでした。そもそも年度別の集計をおこなう 以上は対局日も明示すべきだと思います。2014年度までは「今年度棋士成績」の勝敗数の増加を通じて実質的に連盟が 対局日をバラしていたわけですし、公表しない理由がわかりません。その分、問合せを受けても説明しづらいと思います。 「ズレの原因は?」「対局日が未公表のため」「なぜ公表しない?銀河戦は主催者が既に公表しているのに」 で三手詰みですから。 補足の補足です。 当方がプロ棋戦の対局予定や結果に関する一次情報をもたないため、データの正確性には責任をもてません。そのため データ元は明示し、データの改変や推定はおこないません。データ管理の基本です。明らかに矛盾や不足のあるデータは 保留扱いとするのが本来のやり方ですが、先日運用担当が三段リーグでやらかしました。プログラムのチェック機能で でてきたもので、一方が○、他方がブランクになっているデータでした。保留扱いすべきなのですが、このケースは ほとんどが単なる●のつけ忘れなので、勝手に推測し修正を加えました。九割方はこれで問題ないのは確かなのですが、 このときは別の理由でのミスだったようで、勝手な修正で間違いを拡大することとなりました。やはり原則通りの運用 すべきだったと、本人反省していました。これは一例ですが、一次情報の無い者がデータの改変はやってはいけない ことという当たり前のことを再確認しました。 さて、当サイトでは公表されたデータのみで作成しています。NHK杯の対局日も実際には全部推定できていますが、 それらは主催者が公表したものではないので、正確性についての責任は主催者にはなく当方になります。その責任は もてないので、それらのデータは原則にしたがい使いません。(「公表」とは通常のアクセス手段により表示される 内容に限定されるものとされていますので、現在たぶん私を含め多くの人が棋譜データから日付を得ていると思いますが、 そのようなやり方は「公表」の範囲外です。) 長々と書いてきましたが、公式サイトの「月間対局結果」と「今年度成績」から伊藤匠四段のデータが実際にどのように 扱われるかを具体的にみていくと以下のようになります。 Step1.「月間対局結果」の抽出 2020年度と2021年度の「月間対局結果」のデータを抽出します。2020年度は三段時代の分も含めて8勝4敗です。 2021年度は38勝10敗です。銀河戦の「年度またがり」データは存在しないので、年度のつけかえは発生しません。 Step2.2020年度分の勝敗数チェック 伊藤匠四段の場合、「月間対局結果」の2020年度分は8勝4敗です。銀河戦の「年度またがり」データは存在しません。 この中でまずプロ入り前の新人王戦の勝敗を除きます。-1勝-1敗です。次にNHK杯戦の「年度またがり」データが あるので、+1敗します。 以上から7勝4敗となり、これは2020年度の「今年度成績」と一致します。 なお、NHK杯戦の放映日までは「月間対局結果」やNHK杯戦公式サイトではNHK杯戦の勝敗は不明であるため、 上述の「年度末処理」で求めた勝敗データを使います。 Step3.2021年度分の勝敗数チェック 伊藤匠四段の場合、「月間対局結果」の2021年度分は38勝10敗です。銀河戦の「年度またがり」データは存在しません。 この中でNHK杯戦の「年度またがり」データがあるので、-1敗します。 以上から38勝9敗となり、これは2021年度の「今年度成績」と一致します。 こうした整合チェックを毎日全棋士・全女流棋士について実施し、不整合があれば、不整合の内容に応じて対処します。 一番多いのは銀河戦の放映日翌日で、「月間対局結果」には銀河戦の勝敗データが無いので銀河戦公式サイトのデータを 使いますが、この分の勝敗が「今年度成績」に反映されていないケースです。 繰り返しになりますが、今回の質問にあるズレの原因は、「月間対局結果」と「今年度成績」のズレに起因します。 もっともNHK杯戦の勝敗も「月間対局結果」には無いので正確にはNHK杯戦の公式サイトのデータを使うので、 厳密には日付データです。 伊藤匠−松尾戦の放映日は2021年度であり対局日は未公表です。対局日の推定は「年度末処理」の際に2020年度の 「月間対局結果」「今年度成績」のデータ及び銀河戦・NHK杯戦の組合せデータから、2020年度であると私が勝手に 推測しているだけです。この勝手な推測を当サイトでそのまま掲載するわけにはいかないので、伊藤匠−松尾戦は 2021年度のページに掲載します。しかし、そうすると御指摘の通りズレが生じるので「公式サイトの記録とずれている 対戦」にズレの原因をまとめて掲載しています。なお、伊藤匠四段の場合は上述の通り、2020年度についても三段時代の 勝敗があるためにズレがあり、それは2020年度分の「公式サイトの記録とずれている対戦」に掲載されています。 このような処理形態を10年以上続けています。特に2014年度までは「未放映のテレビ棋戦の勝敗データが『今年度成績』 に反映されている」ということは、連盟は公表していなかったのですが、ディープなファンにはよく知られていたので、 ズレについての違和感は特にないようでした。その代わり「ネタバレ」として扱われることは当方が困惑していました。 そういうつもりではなく、いちいち質問に回答するのが面倒なので、「月間対局結果」(正確には一部主催者サイトの データ含む)と「今年度成績」の整合性チェックプログラムを改造し、「公式サイトの記録と ずれている対戦」ページ 作成プログラムを作成しただけの話です。 |